教えて!ドクター
第1回●骨粗鬆症による骨折は増えている。要介護状態にならないために。
原宿リハビリテーション病院 名誉院長 林 𣳾史先生
──日本人の平均寿命は2019年の時点で男性が81.25歳、女性に至っては87.32歳と、まさに世界トップクラスですが、非常に喜ばしい一方で要介護者の増加等の問題もクローズアップされています。骨粗鬆症とはどのような関連があるのでしょうか?
林自立した健康な日常生活を送れる期間を「健康寿命」といいますが、実はこの「健康寿命」を延ばすことが大事なのです。ご高齢の方が要介護状態になった原因として認知症、脳卒中、老化による衰弱に次いで「転倒・骨折」が第4位(12.1%)です。さらに要介護状態となった原因を年齢別でみると、85歳以上では脳卒中に骨折が近づき、90歳を超えると骨折が脳卒中を上回ることがわかってきました。つまり、他人の世話を受けずに平均寿命をまっとうするために、「骨折の予防」が非常に大事であるということです。
骨粗鬆症は加齢や閉経などにより骨がもろくなる病気で、骨粗鬆症のもっとも深刻な状況は、寝たきりなどの原因にもなる太もものつけ根の骨折を引き起こすことです。骨粗鬆症は、自立した健康な生活の継続を困難にする看過できない疾患であると言えます。
──実際、高齢化が進み要介護状態の方が増加している中で、骨粗鬆症による骨折を経験する患者さんは増えているのでしょうか。
林残念ながら増えています。日本では5年に一度、継続的に「大腿骨近位部骨折発生率」つまり太もものつけ根の骨折の全国調査が行われています。この結果を見ると調査を開始した1987年に約5万3千人だった骨折患者さんが2017年にはおよそ19万人と、3.6倍に増加しています。骨粗鬆症の患者さんも確実に増えていると言ってよいでしょう。
──骨粗鬆症の患者さんは増え続けているとのことですが、なにが問題なのでしょうか。
林まず、骨粗鬆症という病気は一般的に無症状のまま進行するので、皆さん、骨の変化に気がつかないのですね。また、いざ骨粗鬆症と診断されて治療を始めても治療効果がなかなか目に見えにくい。実は、骨粗鬆症の治療による骨の変化はゆるやかで年単位の治療が必要になる場合が多いのですが、患者さんご本人には実感がないので治療が長続きしにくいという問題点があります。
──骨折するまで気づかないと……。
林そうです。さらに言えば骨折自体に気づかない場合もあります。例えば脊椎、つまり背骨は骨粗鬆症が進行すると真っ先に骨のカルシウム量が減って骨がスカスカになり、まるでスポンジのような状態になってしまいます。そうなると転倒、くしゃみや荷物を持ち上げるなどのちょっとした力が加わるだけで圧迫骨折、つまり背骨がクシャッと潰れるように折れてしまうことがあります。背骨の骨折の痛みはだいたい2〜3週間程度でやわらいでくるので、軽い痛みの場合はご本人も骨折に気づかないことがあります。ですから、骨粗鬆症を早期に発見し骨折を予防するためにも、今のご自身の骨の状態を知っておくことは大事なことです。
──骨粗鬆症の予防、早期発見・治療のためにもご自分の骨の状態を知っておくことが重要だということですが、具体的にどうしたらよいですか?
林骨折予防の観点からも骨粗鬆症の早期発見は重要です。そのために、骨検診を受けることをお勧めします。ご自身では気づきにくいため、骨検診を受けて、まずは今の自分の骨の状態を知っておくことが必要です。それにより骨折する前に骨粗鬆症対策が打てます。骨検診では腕や手、踵(かかと)、腰の骨などの骨密度を測ります。自治体の検診や人間ドッグなどで受けることができますので積極的に利用しましょう。そこで、「要精査(要精検)」の判定が出たら、整形外科を受診し骨の精密検査を受けてください。