骨粗鬆症Q&A 原宿リハビリテーション病院 名誉院長 林 泰史 先生

骨折予防について

骨折予防の注意点を教えてください 骨折予防のために骨粗鬆症の治療を続けることのほか、カルシウムの多い食事を摂る、日光浴をして体内のビタミンDを増やす、運動する、の三原則を守り、骨粗鬆症にならないことと転ばないことが大切です。

背景
(京都府:67歳女性)7、8年前から腰が痛くなり、病院などを受診してあらゆる治療をしてもらいました。自宅でも治療を続けていますが、日を追うごとに痛みが増しています。骨折に注意して日常生活を送っていますが、骨折予防のための注意事項はありますか。

中高年者の腰痛にはさまざまな原因がありますが、60代後半の女性の場合、半分以上は骨粗鬆症による腰骨の変形や骨折によるものと考えられます。骨粗鬆症は治療が必要となります。腰痛から7、8年も経っていますので、まずは整形外科医を受診し、痛みの原因について再度診断してもらって下さい。

人間の体は220個以上の骨からできていて、そのうち歳と共に折れやすくなる骨は、①背中や腰、②腕の付け根、③手首周辺、④太ももの付け根、の4か所です。

背中や腰の骨は物を持ち上げたり体をねじったりした時に、腕・手首・太ももの付け根の骨は家の中や道路上で転んだ時に、それぞれ骨折が生じやすくなります。

背中や腰の骨折は自然に骨がつながりますし、腕や手首の骨折は手術で治したり、ギプスをして通院で治せますが、太ももの付け根の骨折は歩行が困難になるばかりか、手術を受けないと回復しない場合がほとんどです。歳を取ってからの入院・手術は、持病が悪化したり、脚の働きが低下して要介護状態につながることもあります。

骨折予防のための日常生活では、①骨の材料となるカルシウムを食事で十分に摂る、②カルシウムの吸収を良くするために日光浴をして体内にビタミンDを増やす、③血液中のカルシウムを骨に結合させるために運動をする、の3つが大切です。

牛乳・乳製品や小魚・海草・黄緑色野菜など、カルシウムの豊富な食品を摂る、毎日の散歩やゲートボールなどの軽い運動をする、木陰で30分間ぐらいの日光浴をする、といった三原則をぜひ守ってください。また、散歩程度の運動は背中や膝をよく伸ばし、足の筋肉を強くしますので、転ぶのを防ぐのに役立つことがわかっています。

転倒予防のためには何に気をつければ良いのでしょうか 骨粗鬆症に対する治療等で骨を強くするとともに、転倒しないために、身の回りの生活環境や杖などの歩行補助具の安全性、また、他の病気や一緒に飲んでいるお薬などもチェックしましょう。

背景
(岐阜県:82歳女性)10年前に骨粗鬆症と診断され、カルシウム剤、活性型ビタミンD3剤、ビスホスホネー卜剤などの治療薬を服用してきました。骨密度は増減しながらも維持されていますが、背骨が潰れ、背中が丸くなってきたため、すぐに転びそうになります。予防策はありますか。

骨粗鬆症によって背中が丸くなってきますと、姿勢の不安定性をカバーしようとして膝関節はつねに曲がり気昧になります。この状態では、歩く際につま先やかかとが十分に上がらず、道路や床の少しの段差にも足をとられて転んでしまいます。骨を丈夫にするとともに転ばないように気をつけ、太ももの付け根の骨折や肩・腕の骨折を予防することが大切です。

高齢者の転倒は、「場所の条件」と「体の具合の悪さ」が重なった場合に生じます。場所の条件とは、①足元の暗さ、②まぶしさ、③滑りやすさ、④高低差、⑤部屋の温度差の「五さ(差)」です。足元を明るくする、まぶしい光をさえぎる、滑りやすい床には滑り止めのマットを敷く、濡れた床はこまめに拭く、足元の段差をなくして寝室と廊下を同じ温度にする、など「五さ」解消による生活環境の改善に努めましょう。
骨粗鬆症と骨折の予防

体の具合については、①視力や聴力の低下は可能な限り補う、②麻痩があったり、脚の力が弱くてふらつきやすい人は杖を使う、③ヒップ・プロテクターを装着する、などで転倒や骨折を予防してください。

また、一過性脳虚血(いっかせいのうきょけつ)発作(TIA:一時的に血栓がつまり、脳梗塞の症状がでる)や不整脈があれば治療を行い、睡眠薬や糖尿病治療薬、高血庄治療薬などを服用している場合は副作用が出ていないかのチェックを行うことも大切です。

高齢で骨粗鬆症です。骨折を予防するには、どんなことに気をつければ良いのでしょうか 骨折しないために積極的に骨粗鬆症の薬による治療を続けましょう。それに加えて食事や運動・日光浴、転倒しないための生活環境の工夫もしましょう。

背景
(石川県:80歳女性)白内障を患って視力が低下し、足元がおぼつかない状態です。骨粗鬆症のため骨ももろくなっていると思い、骨折を心配して外出を控えています。家の中に手すりや滑り止めをつけようかと主人と相談しているのですが、骨折予防のためには、他にどんなことに注意すれば良いでしょうか。

高齢になって骨折すると、歩く力が低下して要介護状態にもなりかねません。骨を強くし、転ばない方法を工夫しましょう。骨密度の検査を受け、骨が弱くなっているようなら、活性型ビタミンD3、ビタミンK、ビスホスホネート剤、選択的エストロゲン受容体修飾薬(SERM)などを内服して骨を強くします。また、強い骨を作る作用を持つテリパラチドや、骨が溶けるのを抑える抗RANKL抗体、抗スクレロスチン抗体といった注射薬もあります。薬に加え、運動や食事、日光浴などの生活習慣を見直すことも大切です。
薬について

本格的な運動が無理なようですので、杖を使ったり、ご主人に手を引いてもらうなどして、少しずつ外に出て歩くようにしましょう。痛みがある場合は、痛みを和らげる注射や鎮痛剤の坐薬や貼り薬をしてもらうと楽になるでしょう。なお、他に服用している薬が転倒の原因になっている場合がありますので、その可能性があるか否かを医師に相談してみてください。

転倒を防ぐためには、手すりや滑り止め以外に、家の中を明るくする、つまづきやすい段差をスロープにする、整理整頓をして障害物をなくす、部屋による温度差を作らない、などが大切です。
骨粗鬆症と骨折の予防

また、転んでも骨折しにくいヒップ・プロテクターも効果的でしょう。最近は白内障の手術も進んでいますので、視力回復のために受けてみてはいかがでしょうか。転倒を恐れ、外出を控えて消極的に生活するよりも、いろいろなアイディアで転ばない工夫をして、積極的に人生を楽しみましょう。

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