教えて!ドクター
第2回●骨折の連鎖(ドミノ骨折)を断ち切ることが大切
原宿リハビリテーション病院 名誉院長 林 𣳾史先生
──骨粗鬆症による骨折が問題とのことですが、具体的にどのような点に注意すべきでしょうか?
林骨粗鬆症の代表的な骨折部位は背骨、太もものつけ根、手首、上腕部ですが、骨粗鬆症による骨折は、連鎖する(ドミノ骨折)ということがさらに大きな問題です。一度背骨を骨折すると次の背骨の骨折を起こす危険性が5倍に、太もものつけ根の骨折を起こす危険性は2.5倍になることがわかっています。そのため、骨粗鬆症と診断されたら最初の骨折を起こさないように治療を開始することが大事です。でも、不幸にも骨折した場合は、次の骨折を引き起こさないために、骨粗鬆症の治療をすぐに始めること、そして続けることはとても大切なことです。
──なるほど、骨折の連鎖を断ち切ることがことのほか大事なのですね。その他、骨折後の体への影響などはありますか?
林もちろんあります。背骨の骨折後には背中や腰が丸くなり身長が縮んだりします。背中や腰が曲がった姿勢では恥ずかしいと外出しなくなってしまう人もいます。当然、運動不足になり、気持ちも沈みがちになるでしょう。また、背骨の骨折によって姿勢のバランスが崩れると、それを補うために膝を曲げて歩くようになります。そうすると大股では歩けず、ちょこちょこ歩きになるので、さらにつまずきやすくなって転倒・骨折を繰り返してしまう……。さらに背中が曲がることで肺や腹腔(腹部の内臓がおさまっている空間)が圧迫され呼吸がしづらくなったり、逆流性食道炎の原因になることもあります。
──それでは、とにかく骨のカルシウム量を減らさないことが重要なのでしょうか?
林そうですね。代表的な骨量測定方法であるDXA法(二重X線吸収法)では、YAM(Young Adult Mean:若年成人平均値)という20〜44歳の健康な人の骨のカルシウム量(骨密度)を100%として、患者さんの数値と比較します。それがおよそ70%以下の場合またはすでに骨折がある場合は80%未満であれば骨粗鬆症と診断し、治療を開始します。最近は骨の強度に重要なのは、単に骨のカルシウム量だけではなく、骨の性質すなわち骨質の良し悪しなども深く関わっているといった研究も進められています。また、糖尿病や腎臓病の方は、ある程度の骨のカルシウム量を保っていても骨折しやすいというデータもありますから、ある程度の年齢を経たらさまざまな病気と骨の状態を横断的に診ていただく必要があるかもしれません。
──骨粗鬆症は単なる老化だと考えていてはいけないのですね。
林確かに骨粗鬆症は老化だと思われていた時代もあります。しかし、老化の定義は進行性(突発的に起こるのではなく普通に進んで戻らない)、普遍性(全ての人に共通して必ず起きる)、内在性(体に内在するものによりもたらされる)、それから障害性(生理機能低下などの有害性)という4つの要素が挙げられます。骨粗鬆症の場合、「普遍性」や「進行性」が当てはまらないのは骨のカルシウム減少を生じない人がいる、治療で回復させることができる、の2点だからです。進行をくい止めて強くできる、あるいは進行を遅らせることができるのですから、骨粗鬆症は老化ではなく、高齢者に多いれっきとした病気なのです。
──先ほど言われたように、骨のカルシウム量が低下し非常に骨折を起こす危険性が高い患者さんでも骨粗鬆症の進行をくい止めることは可能でしょうか。
林時間はかかりますが可能です。実際、私はそういった患者さんの診療を経験しています。そういった患者さんでは治療はもちろんですが、食事改善や適度な運動を本当に一生懸命に、根気強く続けられています。先述しましたが、骨粗鬆症の治療効果は目に見えない部分が多く、治療を途中でやめてしまうことが多い……。でも、やはり“継続は力なり”なのです。